2023年度の中国税務を占う

昨年度の中国GDP(名目)は121兆元(18兆米ドル)に達し、成長率は鈍化したものの3%を維持したと報道にある。日本の名目GDPは米ドル換算約5兆米ドルなので3.6倍の開きだ。一方、一人当たりGDPは日本が約4万ドル、中国は1.2万米ドルなのでこちらは逆に3倍超の開きがある。次に22年度の中国税収は下表のとおり(単位:億元)。
税目
22年度
21年度
増減
増減率
国内増値税
     48,717
      63,519
  -14,802
-23.3%
国内消費税
     16,699
      13,881
    2,818
20.3%
企業所得税
     43,690
      42,041
    1,649
3.9%
個人所得税
     14,923
      13,993
      930
6.6%
輸入増値税/消費税
     19,995
      17,316
    2,679
15.5%
輸出増値税(還付)
    -16,258
     -18,158
    1,900
-10.5%
都市維持建設税
      5,075
       5,217
     -142
-2.7%
車両購入税
      2,398
       3,520
   -1,122
-31.9%
印紙税
      4,390
       4,076
      314
7.7%
資源税
      3,389
       2,288
    1,101
48.1%
契約税
      5,794
       7,428
   -1,634
-22.0%
土地増値税
      6,349
       6,896
     -547
-7.9%
不動産税
      3,590
       3,278
      312
9.5%
耕地占用税
      1,257
       1,065
      192
18.0%
土地使用税
      2,226
       2,126
      100
4.7%
環境保護税
        211
         203
        8
3.9%
車両船舶タバコ税等
      1,309
       1,236
       73
5.9%
関税収入
      2,860
       2,806
       54
1.9%
税収合計
    166,614
     172,731
   -6,117
-3.5%
非税収入
     37,089
      29,808
    7,281
24.4%
財政収入
    203,703
     202,539
    1,164
0.6%
1998年度から2013年度までほぼ毎年二桁成長してきた税収は2014年から鈍化し、2020年度にマイナス成長を記録した。21年度は二桁成長となったが、22年度は再びマイナス成長となった。。
個々の税目をみてみよう。コロナ・ロックダウンで流通網が分断されたからか国内増値税は大幅にダウンとなった。国内消費税は酒タバコ、宝石化粧品、車両、ガソリンなどに掛かるもので増収となるのはリッチな中国人の消費性向を表しているものだろうか。企業所得税、個人所得税はそう落ち込まなかった堅調な経済活動と並行して増収となった。
輸入関係ではまず税関統計から。2022年度の輸入増値税/消費税及び関税収入合計が2.29兆元(前年比13.6%増)となった。関税率の引き下げ、輸入関税優遇、国際協定に基づく優遇などで2850億元の減税や還付を差し引いても増収となるのは単純に物量が増えたということに加え、“穏便に”実施した自主申告納付、裁定などの結果かもしれない。輸入増値税、消費税の増加は物量増加に伴うものだろう。
非税収入も加えた財政収入総額では昨年並みの20兆元(約3兆米ドル)超を確保した。
日本の歳入は令和5年度概算額で税収70兆円その他9兆円合計80兆円弱、財政収入では4倍強の開きとなっている。
次に中国税務の2023年の方向性について考えてみよう。ここでは23年元旦に公布された「人民の便宜のための税務行政春風運動指針」を概観してみる。具体性のない通達であるが、どの方向に注力しようとしているかをある程度窺い知ることができるだろう。
その1. ウェブサイトの活用
‘納税者の要望や質問事項に対するサービスの改善を図る’とあるのは、ウェブサイトを活用するなど、非接触型の服務体制を整えるということだろう。同時にこのチャネルは税務局から納税者への“お尋ね”にも使えるわけで、今後は非接触型の税務調査(からの納税者による自主修正申告で決着)がより増えていくことになるだろう。
その2. 個人所得の把握強化
個人所得が年々増え、また収入源が多様化している昨今、個人に確定申告の実施を促して税還付の蜜を与える代わりに、個人の納税記録を収集したいとする意図が見え隠れする。給与外所得の把握、社会保険徴収のベース確保などを通じて、個人所得税及び社会保険料の徴収は一層強化されるだろう。
その3. ビッグデータの活用
ビッグデータを活用するためにはデータの収集がまず必要になる。ここ数年増えてきた“税務局からのデータ入力の非公式なお願い”が、今後ますます増えそうだ。税務調査ではないので協力はしていきたいところだが、どう入力していいか分からないシート、目的不明のシートに戸惑う局面も多々あろう。当局もよく分かっていないので自主判断で無難に入力提出すればよい。また、電子発票の積極的な利用も謳われている。
その4. 税務登記、税納付の国際化
これまで一般に中国国内の納税専用口座から引き落とされるのが原則の税納付だが、国外からの人民元を送金し納付する体制を整えようということのようである。つまり国外法人の中国における恒久的施設の認定、PEとしての税務登記、納税を(役務提供先であり対価の支払源である)国内法人とは切り離して行えるプラットフォームを作ろうとしているらしい。
その5. 政府部門間の情報連携
工商行政部門での登記情報変更記録を税務部門が共有することで、税務登記事項が自動的に変更されるという横の情報連携を強化することが強調されている。一方で、今だに税務登記で法人代表者のパスポート原本の提示が求められることや、税務責任者の顔写真を税務局に出頭して撮影しなければいけないところがあり、なんとかしてほしいと切に願うものである。
その6. 納税者信用制度
税収規模ではなく、申告内容の正確性や期限遵守の態度を見て評価するのだろう。調査頻度にも関わってくるので、期限内の申告には注意されたい。正確性は修正申告で補正もできるのである程度は事後でも補えるだろう。
以上、2023年度の中国法人の税務実務の参考となれば幸いである。

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