従業員の採用では、採用から退職までの「コスト」、「リスク」管理を考慮する必要があります。日本では人件費抑制の目的で「派遣社員」を採用しますが、中国では、社会保障、個人所得税の計算、代行納付のアウトソーシング、いざという時のリストラの容易さから「派遣社員」を採用するケースが多く見受けられます。
 
中国に於ける「正社員」とは直接会社と労働契約を締結した従業員のことを言い、「派遣社員」とは派遣会社から従業員を「形式上派遣」してもらう形態のことを言います。形式上派遣とは、実際の面接、給与交渉は直接会社と従業員との間で行い、従業員は労働契約を派遣会社と締結し、会社へ派遣されます。派遣会社は、派遣する社員を常時抱えているわけではありません。そのため担当者が産休に入ってしまい派遣社員で穴埋めしたり、一時的に人員が必要なので臨時派遣してもらうという使い方は中国では一般的ではありません。
 
人件費を抑えるために派遣社員を採用するのはあまり得策とはいえません。中国では、法律上同一労働、同一賃金であるため、派遣社員だからといって正社員よりも給与を下げたり、社会保障に加入しないことは認められません。特に生産工場などでは、同じ仕事に対して、同一賃金を支払わなかったために労働争議、ストライキに発展した例が多く見られます。
 
コスト的に考えると「正社員」と「派遣社員」とでは相違はなく、社会保障、給与計算の総務関連業務を自社で内製化するか、派遣会社に手数料を支払ってアウトソーシングするかの選択となります。
 
それでは何故、派遣社員を採用するかというと、労務リスク管理上、“比較的”契約を解除(解雇ではありません)しやすいからです。直接契約の正社員だと契約を途中で解除するのに交渉、経済補償金、更に数カ月の割増し退職金などのリストラ費用が嵩みます。派遣社員の場合は、社員を会社の判断で気軽に派遣会社に戻すことは出来ないのですが、契約解除であれば経済補償金を支払えば解決します。注意事項として一般的に派遣契約は派遣会社がリスクを取らないような条件となっており、派遣会社と派遣社員との間で法律的な面でトラブルがあった時は、最終的に会社は連帯責任を取ることが通常です。
 
正社員と派遣社員では人件費に差はないと言いましたが、上海、北京など都市部とは違い、コンプライアンス上問題があるものの、地方では派遣業者を介した社会保障費の節約が普通にみられます。
 
地方の派遣会社は内陸部の最低賃金が低く、社会保障費がミニマム負担で構わない地域に会社登録を行い、そこでの最低賃金(或いは平均賃金の6割)に対して社会保障を支払います。派遣社員は形式上、内陸部の派遣会社から派遣され、採用する会社は安い社会保障費を派遣会社に支払うことになります。中国では年金(養老金)制度を含む社会保障は地方管轄であり、全国統一社会保障制度がまだ確立されていないことの間隙をついた方法です。
 
よって、地方工場の労務管理では、幹部社員は直接契約の「正社員」、流動性の高い「作業員」は派遣社員とすることで、社会保障費の抑制、市況悪化時のリストラ対策など柔軟性を持たせる雇用パターンが見受けられます。
 
待遇で差を付けず、単に人事業務の一部をアウトソーシングしていると説明すれば中国の従業員は「正社員」と「派遣社員」の違いをあまり気にしません。経済状況が劇的に変化する中国では、正社員、派遣社員の採用配分を上手くバランスさせることで将来的な労務リスクに対処することが可能です。