内部統制の基本として「職務分掌」があり、会社の各部門、各部署の担当者の「業務内容」は、「職務記述書」(Job Description)である程度明文化されていると思います。今回は「兼務」の名の下に「職務分掌」が徹底されていない中国特有の事例を考えて行きます。
 
「職務分掌規定」とは「業務内容」、「権限」、「責任の範囲」を明文化したものです。会社組織は中国と日本とで大きな違いはなく「製造部門」、「製造補助部門」、「販売部門」、「購買部門」、「資材部門」、「管理部門」に分かれましょう。「管理部門」は更に「行政」(総務に相当)、「人事」、「財務・経理」、「IT部門」に分かれます。製造スタッフが販売を担当することはないと思いますが、日系企業で「行政」、「人事」の「職務分掌」がおざなりになり、簡単に「兼務」で片付けられている例が見受けられます。
 
「行政部門」の役割は一般に、事業所(或いは工場)の管理、政府機関対応、事業所で使う消耗品の管理、訪問客への対応、社員旅行、忘年会など社内活動の企画などが含まれます。「人事部門」の業務は大まかに「採用」、「給与・社会保障計算」、「研修」(中国語では「培訓」)となります。中国国内企業では上述の役割が明確に分かれています。
 
会社の規模的に行政、人事の担当者を個別に採用できない場合は、一人の担当者が兼務することになります。注意事項として、行政部門の担当者が人事を兼務する際は、専門的な人事研修を受けさせて下さい。中国で「人事」は「財務・経理」部門同様専門職です。まだ制度上徹底されておりませんが、人事業務は財務・経理同様「就業資格」(上崗証)があり、系統立てて学習する必要があります。
 
また、人事担当者は、契約書の締結及び保管、研修を通じた就業規則など会社規定の周知徹底、給与・社会保障費の計算などコンプライアンスに直結した専門的な知識を習得する必要があるため、単に行政部門の仕事が忙しくないので「人事でもやってもらおう」は禁物です。コンプライアンス上問題が発生するリスクが高まります。近時、労働争議、ストライキが頻繁に発生していますが、「人事部門」の果たすべき役割が担当者の意識に植え付けられ、責任者が些細なシグナルも見逃さず早め早めに対処していれば未然に防げたかもしれない危機でした。
 
中国特有の事情として「職務分掌」で曖昧な位置づけにあるのが「通訳(秘書)」です。筆者が直接見聞きした例では、総経理の通訳(秘書)が、「行政」、「人事」、「財務・経理」を兼務していたことがあります。
 
総経理に他意は無かったのですが、「虎の威を借りた狐」の如く通訳が管理部門全体の細部にわたる意思決定をするようになりました。ここまでいくと、『人』が組織全体の弊害となることになりかねませんのでご注意ください。
 
組織を立ち上げる際は通訳も、通訳(秘書)だけをやっているわけにいかないため、ある程度の兼務も仕方がないことですが、各部門が立ち上がった段階では徐々に兼務を解消していきましょう。
 
中国でスタッフをマネジメントする上で必要なコミュニケーション力は、各人の職業意識の高さ、専門的能力及び知識があった上で、語学力があればなお高まるでしょう。 中国に派遣される組織、部門の長には、通訳を介さずにコミニュケーションすることで見えてくる各人の本音、組織の矛盾などを吸い上げ、有効な対策を計画してほしいものです。筆者の経験では語学ができなくても従業員の心をつかむことに長けた管理系の駐在員がおり、「コミュニケーションの基本は相手を思いやること」、と言っておりましたが、これはなかなか実践できるものではありません。
 
やはり中国語ができることでスタッフとの接点が広がるのは確かですし、何より入ってくる情報の質と量が違います。
 
中国でのスタッフマネジメントは、一に気持ち、二に語学、と心得ましょう。
 
更に日本での飲みニュケーションならぬ、スモーケーション即ち、喫煙室での会話では、スタッフの本音と組織のインフォーマル情報が表に出やすいので、喫煙者有利?と言えるかもしれません。
 
日本では管理業務は「ジェネラリスト」が良いとされていますが、中国では「スペシャリスト」が重要視されます。「とりあえず兼務」を一日も早く脱却し、管理部門といえども専門の人員を配置し、「職務分掌」を徹底しましょう。