今回は、中国移転価格文書関連42号通達に規定される、2016年度のローカルファイル記載項目に関し、最重要の2つの論点に絞り実践的な解説をする。
 新ローカルファイル規定で頭の痛いのは、何をどこまで開示するかということだ。表に中国ローカルファイル新規定とBEPSローカルファイルの記載事項を比べ、また、既存の開示情報と新設された情報を分けて表記式で並べてみた。
 
     “バリューチェーン分析”の何をどこまで
表の【(三)−2−(2)】では「上記各段階の参与者の直近年度の財務諸表」が要求されている。BEPS13にはローカルファイル記載事項として、”Controlled Transactions”のところで“A summary of financial information used in applying the transfer pricing methodology”というものがあり、この類推解釈と思われる。所属する事業グループのグローバル合算損益を機能・リスクに応じて配分する方法(利益分割法)を採用しているのであれば、算定方法適用の合理性を確認するために、取引相手方である関連会社の財務情報を開示する必要はあると考えるが、当該会社の利益水準を同業他社と比較分析する方法(TNMM)を選定した場合において、取引各段階の参与者の財務諸表の開示まで必要であろうか。直接取引がない、例えば上流の研究開発法人の財務諸表の開示も要求しているわけであり、中国の一子会社が対応するには荷が重すぎる。では本社が情報を収集してこの要求に応えるべきなのか。
 
 筆者は当該通達を、ここに記載された項目は当局の関心事を納税者に示したものであり、納税者は情報の収集に努力すべき、というものと考える。先ずはできるだけ情報を集める、その中から必要なものだけ取り出して調査対象を選定する、情報を使うか使わないかは当局が決める。法令・通達に関し日本と中国では意識に差があると思う。ローカルファイル記載項目については、これを書かなければコンプライアンス違反と考えるのではなく、努力義務と捉えるべきだ。もちろん、開示により自社の主張を強くサポートできるのであれば記載すればよい。中国現地法人が“予算と時間の制約の範囲内で”できる限りの文書を作るしかない。ローカルファイルの出来映えも大事ではあるが、結局は現地法人の利益水準の高低、課税所得の大小が調査対象を決める。情報収集にあまり翻弄されない方がよいだろう。
 
     “地域特殊要因” 、”バリューチェーン”の何をどこまで
【(三)−1−(4)取引価格決定要素】に「関連取引に関係する無形資産とその影響、ロケーションセービング、マーケットプレミアム等の地域特殊要因」を書きなさい、とある。当局がかなり期待している部分なので、地域特殊要因がないことが明らかであっても、一行で済ませるのではなく、情報を集め分析した上でなかったことを確認した、というような記述が必要である。
 
また、【(三)−2−(3)】では、「企業が創造する価値貢献における地域特殊要因の定量化とその帰属」の記載が求められており、市場プレミアムなど、確かにその中国子会社に帰属する地域特殊要因が認められるのであれば、定量化(数値化)が必要となろう。そうでないなら、地域特殊要因の数値化は手間とコストを考えれば、定性的な記述に止めざるをえないだろう。
 
【(三)−2−(4)】 では、「グループ利益のグローバル・バリューチェーンにおける配分原則及びその結果」とあり、これも同様だ。利益分割法を採用するのであれば、当然ながら事業部のグローバル合算損益と、それをバリューチェーン分析に基づいて取引各参与者に分配する、利益配分計算が必要となる。しかしながら、それ以外の移転価格算定方法を採用する企業で、そうでなくとも自社の利益の合理性が証明できるのであれば、利益配分計算を行うのは過重な事務作業であろう。移転価格税制でいうところのベストメソッド原則(最適な方法を企業が選択して分析し実証する原則)に反することにもなる。ここでは、グループとしての大まかな配分のポリシーを定性的に記述するのが対応可能な限界だろう。
 
 2016年度の中国ローカルファイルは翌年6月末までが作成期限となっている。時間的な余裕もあまりない中で、現在、中国税務の専門家はローカルファイルの叩き台を作成中であろう。また企業の皆様もどこまで開示するかの基準を模索中かと思われる。本稿が企業、専門家の皆様の参考となれば幸いである。