今回は、中国で作成する2016年度の移転価格ローカルファイル(LF)と日本本社で作成するマスターファイル(MF)とが矛盾しないように整合させるための確認ポイントにつき解説する。

2016年度の中国LF2017年6月末までに完成が求められる一方、日本のMF3月決算会社で20183月末が期限であるから、中国LFの完成時点ではMFの作成途上であると想定される。ここでは双方向からの検証を試みよう。始めに、中国LFを参照して日本でMFを作成する場合において、中国LFの記載内容が正しいか、全体とのバランスからみて妥当であるかを確認する。次に、中国LFを作成するにおいて日本のMFを参照し、記載に矛盾がないか、を確認する。

    日本のMF作成において確認すべき中国LFのポイント

 まず、日本本社で作成するMFは企業集団の関連取引の概要を説明するものであるから、各子会社のLFの内容をこと細かに記述するものでないことを強調しておきたい。つまり、中国LFに記載された数値をいちいちMFに記述する必要はないわけである。日本の当局が他国のLFに注目するのは、他国の利益水準が高い場合である。利益率の高いLFは日本の当局が入手する可能性が高いので、これらの法人のLFは記述内容がMFと矛盾しないように注意する必要はある。利益率の特段高くない法人のLFは日本で参照される可能性が低く、LFの内容をMFの記述のために参照することはあっても、LFとの整合性を細かくチェックする必要はない。

 この前提に立ち、確認ポイントをあげるとすれば以下の3つに絞られる。

(1)  中国子会社としてのプライシングポリシーの記述

(2)  バリューチェーンの記述(ロケーションセービング、マーケットプレミアムを含む)

(3)  移転価格上の会社の位置付けと移転価格算定方法の記述

 以下、順に説明する。

(1)  中国子会社としてのプライシングポリシーの記述

 公告42号通達では、役務提供についてのみプライシングポリシー(対価設定方式)の記述が明示的に要求されており、有形資産取引についての明示的な記載要求はない。従って、有形資産の関係会社間取引に関するプライシングポリシーを記載しない、という選択肢もあるわけであるが、少なからぬ会社で有形資産や無形資産(技術使用料)を含めて、会社としてのプライシングポリシーを記述している(弊社の担当する日系企業の移転価格同期資料でも記載している)ので、ここでも確認のポイントとしておく。

 製造会社であればコストプラス的な、販売会社であれば市場価格から相応の利益を差し引いて関連仕入価格を決定するといった、リセールマイナス的な記述が通常であろう。つまりここでは、移転価格検証方法と矛盾しないプライシングポリシーが記載されているなら、特段気にする必要はない。仮に検証方法とは異なる記述、例えば利益分割法的に、グローバル利益を合理的に配分する、などという記述がされているようなら、LFの内容が正しいものかを日本の観点から確認されたい。MFでは役務と資金貸借のみ対価設定方針の記述が求められているので、有形資産、無形資産のプライシングポリシーを記述する企業集団は少ないのではないか。従ってここは主に、日本MFと中国LFの整合性というよりは、中国LFを書きすぎていないか、事実と異なる記述がないか、という観点からの確認となる。

(2)  バリューチェーンの記述(ロケーションセービング、マーケットプレミアムを含む)

中国LFでは、当該中国法人を中心とした上流、下流の法人を含めた取引のフロー図を各法人の機能を含めて記載してバリューチェーンの説明をすることが多い。2016年度ではここに、マーケットプレミアム、ロケーションセービングの記述を含めて作成することになる。日本のMFではこれよりも大きなピクチャーで、企業集団全体や事業部の価値の創出について記述がなされる。つまりは、日本の関連からみれば中国で特段の利益が生まれているようであればそれをMFに反映させることになるが、そうでないなら、中国LFが書きすぎてない限り日本のMFに影響を与えないため、無視してもよい。高い利益率を示す中国法人のLFでの説明にマーケットプレミアムなどの地域特殊要因を用いている場合にはLFの記述内容を特にチェックされたい。

(3)  移転価格上の会社の位置付けと移転価格算定方法の記述

機能・リスク分析の結果、中国法人を「一般製造業者」「制限製造業者」「制限卸売業者」などに分類することが一般的である。日本のMFにおいて、グループ各社をいずれかのカテゴリーに分類するのであれば(法律上は要求されていない任意記載事項である)、その分類と矛盾しないように中国LFの記述とMFの分類との整合性を確認する。移転価格算定方法も同様に、MFにおいて各社の移転価格算定方法を分類開示するのであれば(任意記載事項)、内容の整合性に注意する。

ちなみに、LF同士の内容の整合性であるが、例えば中国の税務局がマレーシアのグループ他社のLFを要求することはありえないわけであるから、LF同士の整合性は対中国当局国という意味では不要である。一方、中国内でのLFは同類の機能・リスクであり類似製品を製造あるいは販売し、市場も同じというのであれば、内部比較対象とされうるので整合性を保っておきたい。一歩、最終親会社である日本においては、中国とマレーシアのLFが調査の上で横並びに比べられる可能性はある。この場合は、中国LFとマレーシアLFLF同士の整合性確認が必要だ。共に利益率が高く(日本での調査リスクが高く)、類似する機能・リスク、製品、市場の子会社があれば、LF同士の整合性に注意する。

    中国のLF作成において確認すべき日本MFのポイント

下表は、42号通達で要求される中国LFの記載項目のうち、どの項目について日本のMFと整合性を確認する必要があるかをまとめたものである(「(四)比較可能性分析」「(五)移転価格算定方法の選択及び使用」はMFとの整合性確認は不要なため省略)。

確認が必要な6項目につき順に解説する。

【(一)企業の概況 ⒈組織構成】

ここは法人の組織を記載するところであるが、中国LFにおいて当該法人に研究開発部門があり、これに重要な意味をもたせている場合において、MFにもその旨の記述があるか、記述がない場合においても矛盾がないかどうか(研究開発は日本本社においてのみ行われており海外法人にその機能はない等)を確認されたい。中国の企業所得税優遇(ハイテク企業認定に基づく法人税率の10%減税)を受けている法人などでは特に必要となろう。

租税特別措置法施行規則第22条の1051項の(3号)に該当する部分である。

【(一)企業の概況 4.経営戦略】

中国LFでは「各部門、業務プロセスにおける実施業務フロー、運営方式、価値創造の要因等」を記述する部分である。日本のMFでも(2号イ)で「グループ構成会社の営業収益の重要な源泉」を記載するので、中国LF作成時にMF(ドラフト)の部分を参照し、中国法人に言及している事項があれば整合性を保つこと。ただし、何度も強調するが、中国LFに書いてあることが日本のMFに書いてないからといって、中国当局が咎めるものではない。MFは企業集団の利益の源泉を一段も二段も高いレベルで記述するものであるから、中国のみならず各国のLFの内容を全て反映するものではない。記載がなくても矛盾していないのならばそれでよい。

【(一)企業の概況 6.組織再編】

中国法人に関係する「企業の関与する或いは重要な景況を及ぼす再編或いは無形資産の譲渡の状況、及びその影響分析」は、グループ全体にとって大きな影響を及ぼす取引である場合、日本のMF(2号ヘ)の「グループ構成会社に係る事業上の重要な合併、分割、事業譲渡等の概要」に記載されるだろう。

【(三)関連取引 1.関連取引の概況 (3)機能リスクの記述】

中国LFで記述される「企業及び関連者が各種関連取引で担う機能とリスク、使用する資産」は、日本のMFで(2号ホ)にある「グループ構成会社の付加価値創出における主たる機能、負担する重要なリスク及び使用している重要な資産の概要」として、会社名を上げて記載されているのであれば、日本MFとの整合性を確認する。

【(三)関連取引 1.関連取引の概況 (4)取引価格決定要素】

中国LFの「関連取引に関係する無形資産とその影響、ロケーションセービング、マーケットプレミアム等の地域特殊要因。地域特殊要因には、労働力原価、環境原価、市場規模、市場競争の程度、消費者購買力、商品或いは労務の代替可能性、政府規制等の分析を要する」の部分である。ここは日本のMFの(2号イ)「グループ構成会社の営業収益の重要な源泉」と(4号)「グループ構成会社間で使用される重要な無形資産の一覧表及び所有者の一覧表」との記述の整合性を確認する。MFに記載がないのであれば、それはそれで構わない。一方ここは、2016年度の中国LFの新出部分なので、担当者としては書きすぎる傾向になりがちである。それでも、特殊要因がない、という結果であるならいいのであるが、特殊要因がある、という内容の記述になるのであれば、日本のMFの観点から、つまり一段高い観点から、本当にそうなのか、グループ内の他法人とも比較して合理性を判断すべきだろう。

【(三)関連取引 5.関連役務 (1)関連役務の概況】

中国LFで「役務提供者及び受益者、提供役務の内容、特性、提供方式、対価決定方式、支払方式及び役務提供後の各者の受益状況等」の記述が求められている。日本のMFでは

(2号ニ)で、「グループ構成会社間の役務提供(R&Dサービスを除く)に関する重要な取決めの一覧表及びその概要(対価の設定方針、費用の負担方法、役務提供拠点の機能など)」とあるが、これは日本の本社がグローバルにイントラグループサービスを提供しているなどの場合に、その内容やポリシーを記載することを想定している。中国法人は主に役務を受ける側としての記述が多いと思われ、提供側たる日本のMFにおける記述と内容が揃っているかを確認する。

中国LFの記述が日本のMFと矛盾しないかの整合性確認は、ソート機能などで中国法人の記述がある部分を抽出し、その内容とLFの記載に矛盾がないかを確認すればよい。LFの内容がMFに記載されていないことは何も問題とはならないのである。

以上、ポイントを絞って、中国LFと日本のMFの内容の整合性を確認されたい。