中国電子商取引法の実務

 

201911日から中国電子商取引法(以下「EC法」)が施行されている。本稿では税務も含めたEC法の実務について概観する。

 

中国では電子決済と連動したECサイトでの商品売買が日本以上に進んでいると実感する。淘宝(タオパオ)、天猫などをはじめとするECサイトで購入する商品を、支付宝(アリペイ)、微信(ウィーチャット)ペイで決済する。配送料も100円程度と廉価で自宅(コンビニ受け取りも可)へ商品が配送される。ちなみに共働きで日中は誰もいない家庭が多い中国では会社で受け取ることも常識。上司はいちいち目くじらを立ててはいけない。

街にはバイクでスタンバイする配達員が溢れている。人海戦術ならお手のものだ。配達された商品が気に入らなければ返品も簡単。よって女子はサイズ違いの服や靴を注文して、サイズの合わない商品を返品する。これまた返品リスクエストをすれば配達員が取りに来てくれるという便利さ。この恩恵に与るには、中国の銀行口座と電話番号が必須で、出張者では電話番号と口座がないために不便をかこつことになる。電話でDDタクシー(配車サービス)も呼べずに雨の日は帰宅難民となるのだ。個人情報をECサイトや政府に握られようが意に介さず(実際のところ本当に重要な資産は別にあるのだろう)、利便性重視で試行錯誤した結果、今日がある。

一方で中国ネット経済には、偽物を販売する悪質な業者の横行や「代購」と呼ばれる並行輸入による脱税という負の側面もあるわけで、賢い消費者はサイト内の評判に注意するなどそれなりの対応をしてきてはいるのだが、ここで法的にもしっかりとした基盤を整備してアジアのデフォルトを狙おう、ということでEC法の施行となった。

 

EC[1]は電子商取引活動に適用されるものであり、ECサイトを通じた商品販売及びサービス提供を対象とするが、情報、コンテンツの提供は対象外である(2条)。自社のサイトで商品、サービスの紹介をし、実際の業務は別途契約を結んで執り行うのであれば、本法の対象外である。

電子商取引を行う者を「電子商取引経営者」と呼ぶ。ここにはECサイトを運営する「ECサイト経営者」と「ECサイト内経営者」の両者が含まれる(9条)。

今やデフォルトとなった中国ECサイトに太刀打ちできるのは、全面営業が許される前提でのアマゾンを除き、もはや中国プラットフォームの一角を占めるのは無理だから、本稿では主としてECサイト内経営者としての日系企業を想定して説明する。EC法の多くの条項はECサイト経営者の義務を規定するものであるが、そのプラットフォームを利用する側の者にも参考になるだろう。

 

中国のECサイトに出店しているECサイト内経営者は、“市場主体登記”を行うこととされる(10条)。具体的に何をするかというと、営業許可証の経営範囲に「電子商取引経営者」の一言を加えるということだ(国市監注(2018236号)。ECサイトに出店している現地日系子会社では営業許可証の書き換え対応が必要だが、実際まだ多くの会社は始めていないようだ。ECサイト経営者は市場主体登記を済ませていないECサイト内経営者に対して、法に基づき登記するよう注意する(28条)義務があるので、そのうち言ってくるだろうから、その時には営業許可証の変更登記が必要になるので心得ておかれたい。実際のところ、本法で日系企業が対応しなければいけない事項はこれだけである。。。それでは本稿も終わってしまうので、ここからは中国EC取引の実務について解説してみよう。

 

日本のECサイトなどで購入した商品を中国の個人が輸入する越境EC取引は2015年ぐらいから盛んになった。ただし直送モデルはリードタイムが長くなることと、中国ECサイトでの販売が主流となったことから流行らなくなり、現在の越境EC取引では、中国ECサイトに出店し、保税区に商品を取り置く保税区モデルが主流である。保税区=越境EC総合試験区はアリババのお膝元である杭州市から始まり、現在では全国35カ所に設置されている。越境EC取引では、一回あたり5千元以内且つ年間26千元以内の個人の購入は、関税が0%、増値税、消費税が法定税率の70%となる優遇措置が適用される。

 

T-MALL GLOBAL(天猫国際)[2]では輸入品が販売されており、多くの商品の価格は税込で表示されている。決済画面に進むと「輸入税」欄は0元(販売価格に含まれている)とあるが、サービス協議条項に、「転売はしないこと」「ECサイト経営者或いは物流業者に授権し、輸入通関申告や代理納税の権限を与えること」となっているので、身分証番号などから、年間限度額を超過した個人に対しては輸入関税が課せられ、ECサイト経営者から消費者に税額が請求されるという仕組みになっているのだろう。EC法もECサイト経営者が物流、通関(納税)、検疫を代行することを認めている(71条)。

 

興味が湧いたので、国外企業がT-MALL GLOBALに出店するのにどれくらいのコストがかかるのか調べてみた。まずは審査が厳しい。T-MALLには紛い物がないというぐらいだから、どこもかしこも出店できるわけではなく、それなりに名が通ったブランドに限られるようだ。店舗保証金は標準で15万元、保健、栄養食品などで30万元、更にテクニカルサービスフィーがとして、主たる取扱商品によって異なるが年3万元または6万元とあり、この二つが固定費となる。このほか、商品販売ごとにだいたい5%の変動テクニカルサービスフィーがある。決済を全てECサイトに任せられるのでこれは仕方がないだろう。T-MALLでは保税区に在庫がある商品には「輸入保税品」であることを明示し、7日以内に配送します、と宣伝しているだけに、競争力を維持するには保税区への在庫が欠かせない。倉庫保管料や相応の在庫の維持がコストとなろう。日本で売れているものをちょっと試しに中国で売ってみようか、という場合のコストとしてはこのようなところであろうか。

 

EC法のその他の条項も見てみよう。

 

電子商取引経営者が商品の販売或いはサービスの提供を行った場合には、紙または電子発票を発行すること(14条)とある。中国子会社が商品を販売する場合には対応が必要で、会社での購入や、個人名義で購入し会社に費用請求する場合は発票が求められる。発票の発行は大量になると発行の手間がかかるし、紙ベースでは郵送費用も発生する。電子発票システムは所轄税務局が許可し、それなりの販売実績ができてから認められる。電子発票が認められれば事務コストと郵送費用を低減させることができるだろう。

 

電子商取引経営者は、消費者に商品の検索結果を提供するにあたり、その選択そのものとは異なる選択肢も同時に提供しなければならない(18条)というのも面白い。淘宝網(Taobao.com)で商品を選ぶと、類似商品検索(找相似)のクリックボタンが現れる。例えば日本のある焼酎を選ぶと、日本の他社の焼酎や韓国の焼酎、日本酒などが選択肢だ。これはECサイト経営者側がAIなどで自動的に選択される設定をしているのだろう。

 

電子商取引経営者には政府へのデータ提供義務(25条)がある。ECサイト経営者には、ECサイト内経営者の身分情報を確認し(27条)、市場情報監督部門及び税務部門に当該情報を報告する義務がある(28条)。

ECサイト内経営者の保護としては、ECサイト経営者からの不合理な制約、条件提示、費用の徴収を受けない(35条)という条項がある。

消費者保護の観点からは、抱き合わせ販売の明示(19条)、保証金徴収の場合の返金方法、手続の明示(21条)、ユーザー情報削除、登録抹消手続の方法、手順の明示(24条)などがある。また、ECサイト経営者に出店者の信用評価制度の構築を義務付け、出店者や商品の評価を削除してはならない(39条)とされる。偽物など知的財産権の侵害につきECサイト経営者に出店閉鎖など必要な措置を取らせ、消費者への賠償責任はECサイト経営者が一義的に負い、出店者への賠償請求はECサイト経営者が行う、などとしたのも消費者保護の一環だろう。ECサイト経営者には多くの義務が課せられるわけだが、一方で物流、決済も含めた総合サービスの提供が認められる(46条)。

 

EC法施行により、代購目的の日本旅行者による化粧品などの買い漁りが中国帰国時に取り締まられ、日本の百貨店などの売り上げが10%以上落ち込んだとの報道もあり、EC法の日本経済に与える影響はそれなりにあるが、消費者の関心が薄れた訳ではない。

しかしながら、ECサイトや微信(ウィーチャット)だけでなく、中国最大のSNSサイトである微博(ウェイボー)や、最近では抖音(TikTok)、快手などの動画系に、KOL(キーオピニオンリーダー=インフルエンサー)を起用した、口コミ文化である中国に刺さるマーケティング手法で消費者の注意を喚起して認知度を継続的に上げる努力がないとシェアは維持できないし、また市場にも食い込めないだろう。日本いいね!だけで売れる時代の終焉は早そうだ。

 



[1]日本語訳はJETROHPで公開されているので参照されたい。https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20190101_jp.pdf